大恐慌、リーマンショックを超える信用危機だ
IMF(国際通貨基金)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は、今回の新型コロナ危機は、1930年代の大不況(Great Depression)になるのではないかと述べた(この結論の裏付けについてはIMFのこの資料を参照)。また、ユニクロを参加にもつファーストリティリングの柳井正会長兼社長は、4月9日の今期決算発表会でコロナ危機は「戦後最大の人類の危機だ」と述べた。東京商工リサーチの昨日(2020年4月27日)の集計によれば、すでにコロナ倒産は100件に登っていると言う。
本当かな?
でも、株価から算出された倒産(債務超過)確率は全くそうした危機を示していない。株価は将来を見て決まるのである。次の図は、今年の大発会(1月4日から)先週金曜日までの全上場企業の株価と負債額をもとに、オプション理論を用いて計算した「債務超過確率としての倒産確率」の日次時系列推移である。以下に先週金曜日(2020年5月8日)までの更新推定結果を示そう。
IMF(国際通貨基金)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は、今回の新型コロナ危機は、1930年代の大不況(Great Depression)になるのではないかと述べた(この結論の裏付けについてはIMFのこの資料を参照)。また、ユニクロを参加にもつファーストリティリングの柳井正会長兼社長は、4月9日の今期決算発表会でコロナ危機は「戦後最大の人類の危機だ」と述べた。東京商工リサーチの昨日(2020年4月27日)の集計によれば、すでにコロナ倒産は100件に登っていると言う。
本当かな?
でも、株価から算出された倒産(債務超過)確率は全くそうした危機を示していない。株価は将来を見て決まるのである。次の図は、今年の大発会(1月4日から)先週金曜日までの全上場企業の株価と負債額をもとに、オプション理論を用いて計算した「債務超過確率としての倒産確率」の日次時系列推移である。以下に先週金曜日(2020年5月8日)までの更新推定結果を示そう。
やや見づらいかもしれないが、黒の実線が全上場銘柄から計算された倒産確率、赤の実線が1部上場銘柄計算された倒産確率、灰色(グレー)が日経225採用銘柄から計算した倒産確率である。緑は、参考のために示した日経225株価指数の水準である。これから幾つかの興味深い事実がわかる。
1) 倒産確率は 全上場企業(黒) > 1部上場企業 > 225企業 の大きさになっている。つまり規模が小さい企業ほど倒産の可能性が高い。
2) 倒産確率は、直近の最安値を示した翌日3月23日に最高値、全上場企業平均で12パーセントを示した後急激に低下し、4月24日には1パーセント弱の水準まで低下した。
3)2020年6月8日の更新結果から、日経平均株価は急激に上昇しているものの、デフォルト確率はそれほど下げてはいないが、ゆるやかな、低下傾向が読み取れる。
4)日経224採用銘柄と一部上場銘柄の推定デフォルト確率はほぼ同じ水準に収束したが、それらと全上場銘柄のとは一定の差をたもっている。
リーマンショック、東日本大震災時の倒産確率と比較してみる。
これだけで今回の危機が「それほどでもない」とは実感できないかもしれない。次の長期の倒産確率を示してみよう。この図は前の図と全くおなじであるが、計測期間が、2000年の大発会から今月24日までの長期間の倒産確率を示している。これから、
3) 今回の危機は、リーマンショックや東日本大震災時の危機に比べて、最大時で比較しても、半分以下である。
4) 今回のコロナショックは東日本大震災時と、大きさは半分以下であるけれども、倒産確率が、全上場企業(黒) > 1部上場企業 > 225企業 の順番になっていることはおなじである。他方、リーマンショック時の倒産確率の大きさは逆で、225企業 >1部上場企業 > 全上場企業(黒) であることに注意されたい。
つまり、リーマンショックは大企業の信用危機であり、小さな企業はむしろ危機に強かった可能性がある。一方、今回の危機は東日本大震災の危機と似ている。小さい企業のほうが大企業に比べてショックの影響が大きい。
東日本大震災は「大地震⇒大津波⇒原発事故⇒経済大災害」という波及が生じた。今回は「コロナウィルス(インフルエンザ)⇒ 経済大災害」という波及であるが、共に経済システムの外からの大災害が経済大災害を引き起こしたという点でおなじであり、大企業よりも小企業に対して影響が大きいということも同じである。しかも、共に「見えないリスク(放射能とコロナウィルス)」に直面をしたときの投資家の不安感を反映しているわけだ。
5)今回のコロナショックの影響を倒産確率でみた時に、以前の危機と比較して、倒産確率の水準が低いという点に加え、ピークからの収束過程が早い、事を指摘できる。
現在の水準は東日本大震災以降に生じたなんかかの危機(ギリシャ危機、中国株価の急落など)での倒産確率の最大水準にも及ばない。全く平時の水準と同様になっている。
倒産確率の水準と収束?過程をどう考えるか?
2つの考え方があるだろう。
第1は、今回の危機は大したことがない。最悪期は脱した。感染者数や死亡者数は、先進国では収束過程に入っている。そうしたことを3月24日以降の株価とそれから計算された倒産確率は、織り込んでいるのだ、とする立場である。
第2は、否、株式市場はあまりに楽観的だ。大規模なパンデミックリスクを経験したことのない投資家やトレーダーは、その影響を十分に理解していないのだ、とする立場である。
さて、どちらが正しいのだろうか? 私は、どちらかと言うと、後者の立場に与するが、皆さんはどうお考えだろうか?
補遺:倒産(債務超過確率)の推定方法について
これについてより詳細を知りたい人は、
1) 拙著「信用リスクモデリング―測定と管理」朝倉書店 (応用ファイナンス講座)の第6章」、あるいは、証券アナリストの資格を保有しているひとは、
2) 拙著『信用リスクモデル』日本証券アナリスト協会、証券アナリスト第2時レヴェルテキスト 証券分析とポートフォリオ・マネージメント No.10 、第3章第3節
3)計算に用いたデータと計算ロジックに「デフォルト確率を用いた
NPMServices
「クレジットリスク・インデックス®」
の計算について」ついては、こちら
4)早稲田大学大学院ファイナンス研究科での講義ノートの縮刷版のパワーポイントを近く公開する予定です。
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