スキップしてメイン コンテンツに移動

更新(2020-6-8) :コロナショックは大したことが無い? 推定デフォルト確率から議論する。

大恐慌、リーマンショックを超える信用危機だ

IMF(国際通貨基金)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は、今回の新型コロナ危機は、1930年代の大不況(Great Depression)になるのではないかと述べた(この結論の裏付けについてはIMFのこの資料を参照)。また、ユニクロを参加にもつファーストリティリングの柳井正会長兼社長は、4月9日の今期決算発表会でコロナ危機は「戦後最大の人類の危機だ」と述べた。東京商工リサーチの昨日(2020年4月27日)の集計によれば、すでにコロナ倒産は100件に登っていると言う。

本当かな?

でも、株価から算出された倒産(債務超過)確率は全くそうした危機を示していない。株価は将来を見て決まるのである。次の図は、今年の大発会(1月4日から)先週金曜日までの全上場企業の株価と負債額をもとに、オプション理論を用いて計算した「債務超過確率としての倒産確率」の日次時系列推移である。以下に先週金曜日(2020年5月8日)までの更新推定結果を示そう。



やや見づらいかもしれないが、黒の実線が全上場銘柄から計算された倒産確率、赤の実線が1部上場銘柄計算された倒産確率、灰色(グレー)が日経225採用銘柄から計算した倒産確率である。緑は、参考のために示した日経225株価指数の水準である。これから幾つかの興味深い事実がわかる。

1) 倒産確率は 全上場企業(黒) > 1部上場企業 > 225企業 の大きさになっている。つまり規模が小さい企業ほど倒産の可能性が高い。

2) 倒産確率は、直近の最安値を示した翌日3月23日に最高値、全上場企業平均で12パーセントを示した後急激に低下し、4月24日には1パーセント弱の水準まで低下した。

3)2020年6月8日の更新結果から、日経平均株価は急激に上昇しているものの、デフォルト確率はそれほど下げてはいないが、ゆるやかな、低下傾向が読み取れる。

4)日経224採用銘柄と一部上場銘柄の推定デフォルト確率はほぼ同じ水準に収束したが、それらと全上場銘柄のとは一定の差をたもっている。

リーマンショック、東日本大震災時の倒産確率と比較してみる。

これだけで今回の危機が「それほどでもない」とは実感できないかもしれない。次の長期の倒産確率を示してみよう。この図は前の図と全くおなじであるが、計測期間が、2000年の大発会から今月24日までの長期間の倒産確率を示している。これから、


3) 今回の危機は、リーマンショックや東日本大震災時の危機に比べて、最大時で比較しても、半分以下である。

4) 今回のコロナショックは東日本大震災時と、大きさは半分以下であるけれども、倒産確率が、全上場企業(黒) > 1部上場企業 > 225企業 の順番になっていることはおなじである。他方、リーマンショック時の倒産確率の大きさは逆で、225企業 >1部上場企業 > 全上場企業(黒) であることに注意されたい。

つまり、リーマンショックは大企業の信用危機であり、小さな企業はむしろ危機に強かった可能性がある。一方、今回の危機は東日本大震災の危機と似ている。小さい企業のほうが大企業に比べてショックの影響が大きい。

東日本大震災は「大地震⇒大津波⇒原発事故⇒経済大災害」という波及が生じた。今回は「コロナウィルス(インフルエンザ)⇒ 経済大災害」という波及であるが、共に経済システムの外からの大災害が経済大災害を引き起こしたという点でおなじであり、大企業よりも小企業に対して影響が大きいということも同じである。しかも、共に「見えないリスク(放射能とコロナウィルス)」に直面をしたときの投資家の不安感を反映しているわけだ。

5)今回のコロナショックの影響を倒産確率でみた時に、以前の危機と比較して、倒産確率の水準が低いという点に加え、ピークからの収束過程が早い、事を指摘できる。

現在の水準は東日本大震災以降に生じたなんかかの危機(ギリシャ危機、中国株価の急落など)での倒産確率の最大水準にも及ばない。全く平時の水準と同様になっている。

倒産確率の水準と収束?過程をどう考えるか?

2つの考え方があるだろう。

第1は、今回の危機は大したことがない。最悪期は脱した。感染者数や死亡者数は、先進国では収束過程に入っている。そうしたことを3月24日以降の株価とそれから計算された倒産確率は、織り込んでいるのだ、とする立場である。

第2は、否、株式市場はあまりに楽観的だ。大規模なパンデミックリスクを経験したことのない投資家やトレーダーは、その影響を十分に理解していないのだ、とする立場である。

さて、どちらが正しいのだろうか? 私は、どちらかと言うと、後者の立場に与するが、皆さんはどうお考えだろうか?

補遺:倒産(債務超過確率)の推定方法について

これについてより詳細を知りたい人は、

1) 拙著「信用リスクモデリング―測定と管理」朝倉書店 (応用ファイナンス講座)の第6章」、あるいは、証券アナリストの資格を保有しているひとは、

2) 拙著『信用リスクモデル』日本証券アナリスト協会、証券アナリスト第2時レヴェルテキスト 証券分析とポートフォリオ・マネージメント No.10 、第3章第3節

3)計算に用いたデータと計算ロジックに「デフォルト確率を用いた NPMServices 「クレジットリスク・インデックス®」 の計算について」ついては、こちら

4)早稲田大学大学院ファイナンス研究科での講義ノートの縮刷版のパワーポイントを近く公開する予定です。







コメント

このブログの人気の投稿

「8割おじさん」の数理モデル

米国の週刊誌Newwweek誌の日本語版『ニューズウィーク日本版』の最新の 2020年6月9日号 では「日本モデル」と題した特集号で、北海道大学医学部の西浦教授が、「8割おじさん」の数理モデル」という論文を寄稿している。冊子体の本誌でも読めるし、また楽天マガジン・dマガジンなどのオンラインの雑誌読み放題でも全てのページが配信されている。 ニューズウィークとしては異例のアカデミックな論文である。数式こそ無いものの、変数名や学術用語が散見される異例の論文に成っている。同誌で経済や政治関係の記事に親しんでいる人にとっては、ちょっと難しい論文かもしれない。 しかし、非常に示唆に富んだ論文である。特に、「8割削減」の意味を丁重に説明している。最近、8割削減に関して、そこまでする必要がなかったという批判があちこちから出ているが、これをよんでから批判をすべきであろう。 疫学における感染症モデルは勿論、マクロ経済や資産価格決定モデル(CAPMやブラック=ショールズモデルなど)も、所詮は複雑な現実の抽象化に過ぎない。しかし、よいモデルというのは、抽象の革新をつかみ、リスク管理を行う場合、大きな間違いをしない基準となりうる。 また、この号では、”日本のコロナ対策は過剰だったか”という、西浦教授と國井修(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)との対談記事も掲載されている。ともにお医者さんでありかつモデリングを研究している二人の言葉は、経済やファイナンスのモデルを用いて仕事をしている、アナリスト、エコノミスト、研究者にとっても学ぶことが大きいとおもう。 國井氏はこう述べている「・・・私達モデラーはリスク評価についてはアンダーアクト(控えめに言う)よりは、オーバーリアクト(大げさに言う)して話をすべきと、肝に命じながらやってきた・・・・」 このことが経済や金融市場のリスク分析に当てはまるかどうか、人それぞれ異なる意見をもっているかもしれない、しかし、1つの教訓だろう。 ただし、西浦先生の論文は、数式を使わないようにしたために、高校数学を理解している人にとっては、帰って難しくなっているきらいがある。むしろ、数式を使って説明したほうが良いかもしれない。ところが、多くの感染症に関する論文や本では、特に日本語で書かれた本や論文では連立微分方程式をつかって説明している。そうす...

感染症モデル入門 (3) Excelで感染症 SIRモデルをシミュレーションする

感染症流行をExcelでシミュレーションする(ファイルがダウンロード出来ます)。 1.準備:ファイルのダウンロードをする。 SIRモデルのわかりやすい(つまり最も簡単な)Excelシートを作成した。Excelファイルを用いたシミュレーションは以下の二通りの方法で実行できる。 1.1 「Google スプレッドシート」を用いてオンラインでSIRモデルのシミュレーションを行う 。  オンラインでシミュレーションをする場合には、Google スプレッドシートをつかいます。「 ここ 」をクリックしてください。「感染症数理モデル_入門と応用_森平_2020-05-29」というファイルがGoogle スプレッドシート上で開くはずです。次のような画面を見ることができます。 携帯などから利用していて、通信環境などが良くないときには、オフラインでの実行をおすすめします。>ファイル?オフラインで実行する、とすれば、自分の携帯にダウンロードしてあるGoogle スプレッドシート上でこのプログラムが実行できるはずです。 1.2 Excelファイルとしてダウンロードして、自分のPC上でシミュレーションをおこなう。  Excelシートとして使い時は、上で示したGoogle スプレッドシートのメニュー上で >ファイル>ダウンロード>MicroSoft Excel (.xlsx)  としてファイルをExcelプログラムしてダウンロードしてください。ダウンロードしたファイルを実行すると、次のような画面が現れるはずです。 2.初期値とパラメータ値を設定する。 2.1 Excelのシートで説明しよう。1行目は変数名とパラメー名前である。2行目の薄緑色のセルに具体的な数値を与える必要がある。ここでは次のような値を初期値とパラメータ値として設定している。 1)  感染可能人数の初期値:$S_0=100$人 2)  感染者人数の初期値:$I_0=1$人 3)  回復人数の初期値:$R_0=0$人 4)  感染率:$\beta=0.01$,つまり1パーセント 5)  回復率:$\beta=0.1$,つまり10パーセント (削減率については今回は計算結果に影響の無いようにしている) これらの...

感染症モデル入門 (5) 再生産数Rtとそれに基づくリスク管理

再生産数$R_t$を理解する。 1.再生産数とはなにか? SIRモデルから導出する。 離散的なSIR感染症モデルの2番目の式(2)を次のように変形する。 \begin{eqnarray}   {I_{t + 1}} &=& {I_t} + \beta {S_t}{I_t} - \gamma {I_t} \hfill \label{eqtn:1} \\    \Rightarrow \,\,\,\,\,\,{I_{t + 1}} - {I_t} &=& \left( {\beta {S_t} - \gamma } \right){I_t} \hfill \nonumber \\    \Rightarrow \,\,\,\,\,\,\frac{{{I_{t + 1}} - {I_t}}}{{{I_t}}} &=& \left( {\beta {S_t} - \gamma } \right) \end{eqnarray}  最後の式1の左辺の「感染者数の伸び率」が0を超える(下回る)ことは、感染人数$I_t$が増加(減少)することを意味する。言い換えれば、右辺が、 \[\begin{gathered}   \beta {S_{t}} - \gamma  > 0 \,\,\,\,\,\,\Rightarrow \,\,\,\,\,\,{S_{t}} > \frac{\gamma }{\beta } \hfill \\ \end{gathered} \] であれば、感染者数は増加する。 両辺を $\gamma/\beta$ で割ると, 明日の時点における再生産数を得ることができる。 \begin{equation} \boxed{\,\,{{\bar R}_t} \equiv {S_t}\frac{\beta }{\gamma } > 1\,\,} \end{equation}  これを時点$t$における実行再生産数と呼ぶ。回復人数を示す$R_t$と区別するために、$R$の上にバーを付けて再生産数$\bar{R}_t$としている。この意味について以下で議論する。その前に感染症...