再生産数$R_t$を理解する。
1.再生産数とはなにか? SIRモデルから導出する。
離散的なSIR感染症モデルの2番目の式(2)を次のように変形する。
\begin{eqnarray}
{I_{t + 1}} &=& {I_t} + \beta {S_t}{I_t} - \gamma {I_t} \hfill \label{eqtn:1} \\
\Rightarrow \,\,\,\,\,\,{I_{t + 1}} - {I_t} &=& \left( {\beta {S_t} - \gamma } \right){I_t} \hfill \nonumber \\
\Rightarrow \,\,\,\,\,\,\frac{{{I_{t + 1}} - {I_t}}}{{{I_t}}} &=& \left( {\beta {S_t} - \gamma } \right)
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
{I_{t + 1}} &=& {I_t} + \beta {S_t}{I_t} - \gamma {I_t} \hfill \label{eqtn:1} \\
\Rightarrow \,\,\,\,\,\,{I_{t + 1}} - {I_t} &=& \left( {\beta {S_t} - \gamma } \right){I_t} \hfill \nonumber \\
\Rightarrow \,\,\,\,\,\,\frac{{{I_{t + 1}} - {I_t}}}{{{I_t}}} &=& \left( {\beta {S_t} - \gamma } \right)
\end{eqnarray}
最後の式1の左辺の「感染者数の伸び率」が0を超える(下回る)ことは、感染人数$I_t$が増加(減少)することを意味する。言い換えれば、右辺が、
\[\begin{gathered}
\beta {S_{t}} - \gamma > 0 \,\,\,\,\,\,\Rightarrow \,\,\,\,\,\,{S_{t}} > \frac{\gamma }{\beta } \hfill \\
\end{gathered} \]
であれば、感染者数は増加する。両辺を$\gamma/\beta$で割ると, 明日の時点における再生産数を得ることができる。
\begin{equation}
\boxed{\,\,{{\bar R}_t} \equiv {S_t}\frac{\beta }{\gamma } > 1\,\,}
\end{equation}
これを時点$t$における実行再生産数と呼ぶ。回復人数を示す$R_t$と区別するために、$R$の上にバーを付けて再生産数$\bar{R}_t$としている。この意味について以下で議論する。その前に感染症の「閾値定理」と「基本再生産数」を定義する。
\[\begin{gathered}
\beta {S_{t}} - \gamma > 0 \,\,\,\,\,\,\Rightarrow \,\,\,\,\,\,{S_{t}} > \frac{\gamma }{\beta } \hfill \\
\end{gathered} \]
であれば、感染者数は増加する。両辺を$\gamma/\beta$で割ると, 明日の時点における再生産数を得ることができる。
\begin{equation}
\boxed{\,\,{{\bar R}_t} \equiv {S_t}\frac{\beta }{\gamma } > 1\,\,}
\end{equation}
これを時点$t$における実行再生産数と呼ぶ。回復人数を示す$R_t$と区別するために、$R$の上にバーを付けて再生産数$\bar{R}_t$としている。この意味について以下で議論する。その前に感染症の「閾値定理」と「基本再生産数」を定義する。
2.基本再生産数$\bar R_0$の直感的解釈。
上の式で時点ゼロ$t=0$に置き換えたものを感染症の「閾値定理」とよぶ。
\begin{equation}
\boxed{\,\,{{\bar R}_0} \equiv {S_0}\frac{\beta }{\gamma } > 1\,\,}
\end{equation}
つまり、感染症が今後増加するかどうかは、この値が1を超えているかどうかの「閾値」を示すので「閾値定理」と呼ばれる。
また上の式の右辺を全人口$N$で置き換えたものを「基本再生算数」と呼ぶ。
\begin{equation}
\boxed{\,\,{{\bar R}_0} \equiv N\frac{\beta }{\gamma }\,\,}
\end{equation}
これは感染症の流行が始まる時点ゼロ($t=0$)で、それ以降何も対策を講じなければ、1人の人が、回復するか死亡するまでに、何人に感染させるかを示す式となっている。
\begin{equation}
\boxed{\,\,{{\bar R}_0} \equiv {S_0}\frac{\beta }{\gamma } > 1\,\,}
\end{equation}
つまり、感染症が今後増加するかどうかは、この値が1を超えているかどうかの「閾値」を示すので「閾値定理」と呼ばれる。
また上の式の右辺を全人口$N$で置き換えたものを「基本再生算数」と呼ぶ。
\begin{equation}
\boxed{\,\,{{\bar R}_0} \equiv N\frac{\beta }{\gamma }\,\,}
\end{equation}
これは感染症の流行が始まる時点ゼロ($t=0$)で、それ以降何も対策を講じなければ、1人の人が、回復するか死亡するまでに、何人に感染させるかを示す式となっている。
稲葉寿 (2015) 「基本再生産数$\bar R_0$の数理」の表1より再掲
|
3.実行再生産数$\bar R_t$の直感的解釈
3.1 実行再生産数$\bar R_t$
\begin{equation}
\bar R_t \equiv S_t\frac{\beta}{\gamma}
\end{equation}
あるいはまた、
\[\boxed{\,\,{{\bar R}_t} \equiv {S_t}\frac{\beta }{\gamma } = {S_t}\beta \boxed{\frac{1}{\gamma }}\,\,}\]
とかくことができる。ここで右辺の最後の項$\frac{1}{\gamma}$は、感染日数の確率分布に指数分布という厳しい仮定を設定すると「平均感染日数」とも解釈できる(この導出を理解することは必要ないが、関心のある人ために、初等の数理統計の知識の範囲での説明を数学付録に示す)。
これから言えることをまとめてみよう。
1) 閾値あるいは臨界値: この値が時点$t$で1を超えていると感染者数が今後増加する。つまり、感染症は収束しないことを意味する。
2) 3つの要因: 右辺は1つの変数$S_t$と、2つのパラメータ(定数)、つまり感染率$\beta$と回復率$\gamma$からなりたっている。
3)パラメータの比: 2つのパラメータは比(分数)の形をとっている。つまり感染率$\beta$を回復率$\gamma$で割ったものが右辺にあらわれている。これは、1人の人が感染をし、その後回復する可能性の大きさを「比率」で表している。この比が大きくなればなるほど、感染は深刻化していくことを表していることは、直感的にも理解できよう。
これを、具体的な人数で表現するために、その時の感染可能人数を$S_t$かけて、感染者がどのくらい増えるかを示す。数値例で考えてみよう。
4) 数値例:t日目の感染可能人数が$S_t=100$人で、感染率が1パーセント$\beta=0.01$であり、回復率が10パーセント$\gamma=0.1$であったとしよう。この2つの比は$\tfrac{\beta}{\gamma}=\tfrac{0.01}{0.1}=0.1=$10パーセントとなる。これに感染可能人数100人を掛けるとt日めの実行再生産数は10人となる。
5)再生産数の推移:前回示したExcelによるSRIモデルのシミュレーションで、以下にしめした図で、右側のJ列にゼロ日(初期時点)からの推移を数値で、また下向きの↙でその推移が図で示されている。この場合、再生産数は急速に減衰していることがわかる。
2) 3つの要因: 右辺は1つの変数$S_t$と、2つのパラメータ(定数)、つまり感染率$\beta$と回復率$\gamma$からなりたっている。
3)パラメータの比: 2つのパラメータは比(分数)の形をとっている。つまり感染率$\beta$を回復率$\gamma$で割ったものが右辺にあらわれている。これは、1人の人が感染をし、その後回復する可能性の大きさを「比率」で表している。この比が大きくなればなるほど、感染は深刻化していくことを表していることは、直感的にも理解できよう。
これを、具体的な人数で表現するために、その時の感染可能人数を$S_t$かけて、感染者がどのくらい増えるかを示す。数値例で考えてみよう。
4) 数値例:t日目の感染可能人数が$S_t=100$人で、感染率が1パーセント$\beta=0.01$であり、回復率が10パーセント$\gamma=0.1$であったとしよう。この2つの比は$\tfrac{\beta}{\gamma}=\tfrac{0.01}{0.1}=0.1=$10パーセントとなる。これに感染可能人数100人を掛けるとt日めの実行再生産数は10人となる。
5)再生産数の推移:前回示したExcelによるSRIモデルのシミュレーションで、以下にしめした図で、右側のJ列にゼロ日(初期時点)からの推移を数値で、また下向きの↙でその推移が図で示されている。この場合、再生産数は急速に減衰していることがわかる。
4. 再生産数に基づくリスク管理と経済政策
実行再生算数を再度見てみよう。
\begin{equation}
\bar R_t \equiv S_t\frac{\beta}{\gamma}=\mbox{感染可能人数}\frac{\mbox{感染率}}{\mbox{回復率}}
\end{equation}
この数値を1以下にしなければいけない。したがって、対策としては、
1) 感染率$\beta$を小さくする。
2) 回復率$\gamma$を高める。
3) t日の「感染可能人数」を$S_t$小さくする。
の3つの政策があることになる。それぞれの意味を考えてみよう。
つまり、接触率を大きくすることにより、「緊急事態宣言の直前の全国で1日500人の新規感染者数が100人に未満に抑え込める「日数」に何日が必要であるか」という説明が行われた。接触率を8割削減することにより、図の赤の実線で示されているように、8割削減すれば2週間ていどで目標を達成することができるとされた。結果的には上の図の3案のなかでもっとも「厳格」な?8割削減案が実施された。
数学付録: $1/\gamma$は平均感染期間を示す
式\ref{eqtn:1}は感染人数を表す差分方程式、ここで、感染人数の減少、つまり、感染⇒回復に関する部分だけをとりだすと、$I_t = I_{t - 1} - \gamma {I_{t - 1}}$となる。これは、感染者がどのように減っていくかを示している。この差分方程式を初期時点から始まり、順次代入を繰り返していくと、
\begin{eqnarray}
\mbox{1日目} \qquad {I_1} &=& {I_0} - \gamma {I_0} = \left( {1 - \gamma } \right){I_0} \hfill \nonumber \\
\mbox{2日目} \qquad {I_2} &=& {I_1} - \gamma {I_1} = \left( {1 - \gamma } \right){I_1} = \left( {1 - \gamma } \right)\left( {1 - \gamma } \right){I_0} = {\left( {1 - \gamma } \right)^2}{I_0} \hfill \nonumber \\
\vdots \hfill \nonumber \\
\mbox{t日目} \qquad {I_t} &=& {\left( {1 - \gamma } \right)^t}{I_0} \approx {e^{ - \gamma t}}{I_0} \nonumber
\end{eqnarray}
となる。最後の近似式、${\left( {1 - \gamma } \right)^t}{I_0} \approx {e^{ - \gamma t}}{I_0}$は、${e^x} \approx \left( {1 + x} \right)\,\,\, \Rightarrow \,{\left( {{e^x}} \right)^t} = \boxed{{e^{xt}} \approx {{\left( {1 + x} \right)}^t}}$という関係を利用している。ここで$e$はネピア数。$e^x$を$x=0$ の周りでテイラー展開をして0次と1次の項だけを考慮すると近似的に$(1+x)$となる。両辺を$t$乗すると最終結果を得る。この近似はもし$x$が十分に小さい値を取る時に成立する。元の式で、$ x\equiv \gamma$、すなわち、回復率であるので、ほぼ成立すると言ってよいだろう。この式は
\[\frac{{{I_t}}}{{{I_0}}} = {e^{ - \gamma t}}\]
と書き直すことができる。この式の左辺は、ゼロ期と$t$期の感染者数の比率である変化率がどのように減少していくかをしめしているので、右辺は、不確実な回復期日数$T$が指数分布に従う時に、回復日数$T$が$t$日以上である確率(生存確率=1-分布関数)を表している。つまり、
\[\Pr \left( {\tilde T > t} \right) = {e^{ - \gamma t}}\]
と書くことができる。指数分布の期待値は、
\[E\left[ {\tilde T} \right] = \frac{1}{\gamma }\]
と書くことができる。この結果から次のようなことが言える。
\begin{equation}
\bar R_t \equiv S_t\frac{\beta}{\gamma}=\mbox{感染可能人数}\frac{\mbox{感染率}}{\mbox{回復率}}
\end{equation}
この数値を1以下にしなければいけない。したがって、対策としては、
1) 感染率$\beta$を小さくする。
2) 回復率$\gamma$を高める。
3) t日の「感染可能人数」を$S_t$小さくする。
の3つの政策があることになる。それぞれの意味を考えてみよう。
4.1 政策1: 感染率$\beta$を小さくする。
感染率を小さくすることは、1) 身体属性にかかわることと、2) 社会的な距離を保つこと、2つに分類されよう。
最初の「身体属性に関わること」は感染症にたいする抵抗力をつけよということであった。一般的には健康状態を保つこと、特に既往症を持つ人、高齢の人は特に注意しようということが強調された。第2にの「社会的な距離(social distance)をたもつこと」、日本では三密をさける(Avoid the “3Cs”)ということであった、つまり、密閉・密集・密接を回避するとことが推奨された。これにより新型コロナウィルス感染の特徴である飛沫感染リスクを低くすることができることが強調された。また、マスクをする、石鹸を用いた手洗いをする、消毒剤による手洗いなどこのことに付随して推奨された。マスクをすることは、WHOは当初懐疑的であったようにだ。しかし、最近のドイツの労働経済学者の実証研究 Mitze, Kosfeld, Rode, and Wälde (2020)によれば、マスクの使用は感染者を40パーセントも減らすこうかがあることをたしかめている。マスク恐るべし。
最初の「身体属性に関わること」は感染症にたいする抵抗力をつけよということであった。一般的には健康状態を保つこと、特に既往症を持つ人、高齢の人は特に注意しようということが強調された。第2にの「社会的な距離(social distance)をたもつこと」、日本では三密をさける(Avoid the “3Cs”)ということであった、つまり、密閉・密集・密接を回避するとことが推奨された。これにより新型コロナウィルス感染の特徴である飛沫感染リスクを低くすることができることが強調された。また、マスクをする、石鹸を用いた手洗いをする、消毒剤による手洗いなどこのことに付随して推奨された。マスクをすることは、WHOは当初懐疑的であったようにだ。しかし、最近のドイツの労働経済学者の実証研究 Mitze, Kosfeld, Rode, and Wälde (2020)によれば、マスクの使用は感染者を40パーセントも減らすこうかがあることをたしかめている。マスク恐るべし。
4.2 回復率$\gamma$を高める。
回復率は、感染した人が健常者として回復し、通常の社会的生活に復帰できるような確率と考えることができる。これには、1) 医療資源(お医者さん、看護師などの人的資源と、病院や保健所、感染症の研究所などの物理的な資源)を充実することと、2)既に感染した人に対する特効薬の開発を上げることができよう。
4.3 「感染可能人数」を$S_t$小さくする。
「感染可能人数」を$S_t$小さくすることが、今回の新型コロナ危機で一番問題に成った点である。これを基本再生産数との関係で表現すると、
\[{\bar R_e} \equiv \left( {1 - \alpha } \right){\bar R_0}= \boxed{\left( {1 - \alpha } \right)N}\left( {\frac{\beta }{\gamma }} \right) < 1.0\]
となる。ここで$\alpha$は削減率である。$\alpha$は結果が1以下になるように決定されるのが普通である。
実はSIR感染症モデルは、人に対する感染症だけでなく、家畜や野生の動物にたいする感染症の伝播もこうしたモデルで記述できる。動物の場合には、ウィルスが人間に感染すると考えられる場合、$\alpha$は殺処分率となる。
オランダでは、毛皮やその油脂を目的とするミンクにおいて、新型コロナウィルスに感染したミンクが、人間の感染にも影響するとのことで、3.5万匹のミンクを殺処分とすることが決定された。鳥インフルエンザや豚インフルエンザなどでも、人間には感染しないとわかっていても、その波及が農家に甚大な経済損失を及ぼすと考えられる場合には、殺処分が実行されている。
人間の場合にはそうしたことは勿論できない。その代わりに、厳格なロックダウン、あるいはそれよりも緩やかな外出制限をおこなうことにより、感染可能人数を、一時的ではあるが、削減することが行われている。
5. 接触率「8割」削減の意味
今回のサイン型コロナウィルス危機では、特別事態宣言を出すかどうかの判断において、接触率8割削減が提案され、それに沿うような形の行動が取られた。その場合に説明は実行再生算数と接触率との関係ではなく、よりわかりやすい下の図に示すような説明がおこなわれた。
日経新聞電子版、2020/4/25 日経サイエンス2020年6月号新型コロナ感染症、接触削減「8割必要」モデルで算出より。この元資料は「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」
2020年5月14日」
|
数学付録: $1/\gamma$は平均感染期間を示す
式\ref{eqtn:1}は感染人数を表す差分方程式、ここで、感染人数の減少、つまり、感染⇒回復に関する部分だけをとりだすと、$I_t = I_{t - 1} - \gamma {I_{t - 1}}$となる。これは、感染者がどのように減っていくかを示している。この差分方程式を初期時点から始まり、順次代入を繰り返していくと、
\begin{eqnarray}
\mbox{1日目} \qquad {I_1} &=& {I_0} - \gamma {I_0} = \left( {1 - \gamma } \right){I_0} \hfill \nonumber \\
\mbox{2日目} \qquad {I_2} &=& {I_1} - \gamma {I_1} = \left( {1 - \gamma } \right){I_1} = \left( {1 - \gamma } \right)\left( {1 - \gamma } \right){I_0} = {\left( {1 - \gamma } \right)^2}{I_0} \hfill \nonumber \\
\vdots \hfill \nonumber \\
\mbox{t日目} \qquad {I_t} &=& {\left( {1 - \gamma } \right)^t}{I_0} \approx {e^{ - \gamma t}}{I_0} \nonumber
\end{eqnarray}
となる。最後の近似式、${\left( {1 - \gamma } \right)^t}{I_0} \approx {e^{ - \gamma t}}{I_0}$は、${e^x} \approx \left( {1 + x} \right)\,\,\, \Rightarrow \,{\left( {{e^x}} \right)^t} = \boxed{{e^{xt}} \approx {{\left( {1 + x} \right)}^t}}$という関係を利用している。ここで$e$はネピア数。$e^x$を$x=0$ の周りでテイラー展開をして0次と1次の項だけを考慮すると近似的に$(1+x)$となる。両辺を$t$乗すると最終結果を得る。この近似はもし$x$が十分に小さい値を取る時に成立する。元の式で、$ x\equiv \gamma$、すなわち、回復率であるので、ほぼ成立すると言ってよいだろう。この式は
\[\frac{{{I_t}}}{{{I_0}}} = {e^{ - \gamma t}}\]
と書き直すことができる。この式の左辺は、ゼロ期と$t$期の感染者数の比率である変化率がどのように減少していくかをしめしているので、右辺は、不確実な回復期日数$T$が指数分布に従う時に、回復日数$T$が$t$日以上である確率(生存確率=1-分布関数)を表している。つまり、
\[\Pr \left( {\tilde T > t} \right) = {e^{ - \gamma t}}\]
と書くことができる。指数分布の期待値は、
\[E\left[ {\tilde T} \right] = \frac{1}{\gamma }\]
と書くことができる。この結果から次のようなことが言える。
注意1: 指数分布の形状、従って、その平均や分散は、$\gamma$だけできまる。
注意2 : 指数分布の平均と分散は等しい(厳しい仮定であり現実には合わない、分散のほうが平均より大きい(過分散)、つまり、「平均回復期間<回復期間の分散」であることのほうが普通。
注意3 : 回復率の推定は、ちょっと難しいかもしれないが、COVID-19にかかった人の平均入院期間を計算できれば、回復率$\gamma$の推定は可能.
回復率$\gamma$はファイナンスの世界では、信用リスク分析におけるデフォルト強度として馴染み深い。このγの大きさを変えると、指数分布の形状がどのように変わるかを示している。この計算をおこなうExcelシートは、ダウンロード可能なSRIモデルのシートで異なるタブで計算できる。
指数分布の形状と平均・分散を決定するγ |
参考文献
Mitze, T., Kosfeld, R., Rode, J., and Wälde, K. (2020). Face Masks Considerably Reduce COVID-19 Cases in Germany: A Synthetic Control Method Approach., IZA DP No. 13319.
Abaluck, J., Chevalier, J. A., Christakis, N. A., Forman, H. P., Kaplan, E. H., Ko, A., and Vermund, S. H. (2020). The case for universal cloth mask adoption and policies to increase supply of medical masks for health workers. Available at SSRN 3567438.
Mitze, T., Kosfeld, R., Rode, J., and Wälde, K. (2020). Face Masks Considerably Reduce COVID-19 Cases in Germany: A Synthetic Control Method Approach., IZA DP No. 13319.
Abaluck, J., Chevalier, J. A., Christakis, N. A., Forman, H. P., Kaplan, E. H., Ko, A., and Vermund, S. H. (2020). The case for universal cloth mask adoption and policies to increase supply of medical masks for health workers. Available at SSRN 3567438.
コメント
コメントを投稿
ここに感想をお願いいたします。