追い貸し:ずーと借りられる銀行融資
バブルが崩壊して間もない頃、つまり、1990年代の前半、日本の銀行にまだまだ余裕があって、主要70行と呼ぶ銀行が70もあった頃の話です。
銀行がお金を貸した先が倒産すると、貸金はもちろん、利子も入ってこない。そうするとその貸金(融資)は不良債権として銀行のバランスシートの計上しなければいけない。そうなると日銀や金融監督庁(いまの金融庁)はもちろん、株主やマスコミもうるさい。どうしたら良いか。とにかく元本の返済はともかく、利子だけでも良いからはらってくださいということになる。そうすればその融資は不良債権でない。でも腹を括った借り手ほど強いものはない。利子を払う金もないという。そうなると銀行は融資が直ちに不良債権化するので、新たな融資をして、それで利子を払ってもらうことにする。これを「追い貸し」と呼ぶ。もちろん帳面上だけそのようにする。そうすれば、その融資は「正常債権」となるわけだ。大手の銀行でさへそのようなことをやっていたわけだ(追い貸しのリスク管理をしていた本人から聞いたのだからまちがいはない)。そんなことをやっているうちに、地価が再び上昇すれば問題はなかったのだけれども、そんな甘い期待は木っ端微塵になるときが来た。それが小泉内閣の決断である。
でもこれを合法的にやろうという仕組みがある。しかも300年以上の歴史を持つファイナンススキームである。それは、永久債(perpetual bond)あるいはコンソル公債(consols)とよばれるものだ。しかも国がそうするのだ。
EU永久債で175兆円を資金調達
感染者数世界第2位、死亡者数で3位のスペインが、今日のEU首脳会議(リモート会議?)で1兆5,000億ユーロ(日本円で175兆円)にもなるCOVID-19対策のための復興基金の創設を提案するそうである。実は同じ地中海沿岸国であるイタリア政府は少し前に「コロナ債」と称する満期のある通常の欧州共同債の発行を提案した。イタリア国債はコロナショック以前では、利回りは1.0%以下の水準にあったが、3月18日には2.4%まで上昇した。とても自前でコロナ対策のための国債発行は厳しいのが実情である。そこで信用力の高いEUの名前で資金調達をして、それを使おうとしたわけだ。しかしドイツのメルケル首相は断固!拒否、他の国の賛成もえ得られなかった。
そこで、今度はおなじコロナショックに見舞われたスペイン政府が、元本の返済のない永久債なら何とか認めれるのではとの目論見のもと、永久債発行をEUの名で発行して、その資金でなんとか生き延びようとはかった。最後の禁じ手かもしれないし、寅さんの言葉を借りるならば「それを言ったらお終いよ」という状況なのだ。
永久債の発行は、多分実行されないだろうが、1つの考え方ではある。どのような発行条件を考えているのかわかったら追記をすることにする。ところで、
永久債の実例:英国1751年発行
国が発行する永久債というのは近年はあまり例はないが、18世紀から20世紀前半まではイギリスやアメリカなどそれなりの事例がいくつもある(幸か不幸か日本では今までの発行例はない)。
次のグラフは、大英帝国が1751年、日本で言えば、宝暦4年、徳川中興の祖と言われた徳川吉宗将軍が逝去した年に発行された永久債の利回りを示している。
バブルが崩壊して間もない頃、つまり、1990年代の前半、日本の銀行にまだまだ余裕があって、主要70行と呼ぶ銀行が70もあった頃の話です。
銀行がお金を貸した先が倒産すると、貸金はもちろん、利子も入ってこない。そうするとその貸金(融資)は不良債権として銀行のバランスシートの計上しなければいけない。そうなると日銀や金融監督庁(いまの金融庁)はもちろん、株主やマスコミもうるさい。どうしたら良いか。とにかく元本の返済はともかく、利子だけでも良いからはらってくださいということになる。そうすればその融資は不良債権でない。でも腹を括った借り手ほど強いものはない。利子を払う金もないという。そうなると銀行は融資が直ちに不良債権化するので、新たな融資をして、それで利子を払ってもらうことにする。これを「追い貸し」と呼ぶ。もちろん帳面上だけそのようにする。そうすれば、その融資は「正常債権」となるわけだ。大手の銀行でさへそのようなことをやっていたわけだ(追い貸しのリスク管理をしていた本人から聞いたのだからまちがいはない)。そんなことをやっているうちに、地価が再び上昇すれば問題はなかったのだけれども、そんな甘い期待は木っ端微塵になるときが来た。それが小泉内閣の決断である。
でもこれを合法的にやろうという仕組みがある。しかも300年以上の歴史を持つファイナンススキームである。それは、永久債(perpetual bond)あるいはコンソル公債(consols)とよばれるものだ。しかも国がそうするのだ。
EU永久債で175兆円を資金調達
感染者数世界第2位、死亡者数で3位のスペインが、今日のEU首脳会議(リモート会議?)で1兆5,000億ユーロ(日本円で175兆円)にもなるCOVID-19対策のための復興基金の創設を提案するそうである。実は同じ地中海沿岸国であるイタリア政府は少し前に「コロナ債」と称する満期のある通常の欧州共同債の発行を提案した。イタリア国債はコロナショック以前では、利回りは1.0%以下の水準にあったが、3月18日には2.4%まで上昇した。とても自前でコロナ対策のための国債発行は厳しいのが実情である。そこで信用力の高いEUの名前で資金調達をして、それを使おうとしたわけだ。しかしドイツのメルケル首相は断固!拒否、他の国の賛成もえ得られなかった。
そこで、今度はおなじコロナショックに見舞われたスペイン政府が、元本の返済のない永久債なら何とか認めれるのではとの目論見のもと、永久債発行をEUの名で発行して、その資金でなんとか生き延びようとはかった。最後の禁じ手かもしれないし、寅さんの言葉を借りるならば「それを言ったらお終いよ」という状況なのだ。
永久債の発行は、多分実行されないだろうが、1つの考え方ではある。どのような発行条件を考えているのかわかったら追記をすることにする。ところで、
永久債の実例:英国1751年発行
国が発行する永久債というのは近年はあまり例はないが、18世紀から20世紀前半まではイギリスやアメリカなどそれなりの事例がいくつもある(幸か不幸か日本では今までの発行例はない)。
次のグラフは、大英帝国が1751年、日本で言えば、宝暦4年、徳川中興の祖と言われた徳川吉宗将軍が逝去した年に発行された永久債の利回りを示している。
Bank of England, Consol (Long-term bond) yields in the United Kingdom [LTCYUK],
retrieved from FRED, Federal Reserve Bank of St. Louis; https://fred.stlouisfed.org/series/LTCYUK
(データは米国セントルイス連銀のFREDデータバンクよりダウンロード可能である)
東証上場企業の「DMG森精機(銘柄コード:6141)」は高い技術水準を誇る工作機械メーカーであるが、2021年1月14日つまり来年1月14日を期限とする永久債発行枠を設定した。発行枠は最大で400億円である。詳細な発行条件はまだ未定だそうだが、1)任意償還条項、2)利払繰延条項、3)借換制限条項,4) 劣後特約 などをつけるそうである。1)は当然のことだあるが、2)から4)の特約条項を注意深く考えて、この永久債のプライシングを行うこと、何故長期社債でなくて、永久債を発行することをかんがえたのか、その投資家へのシグナリング効果は何か?などは、研究者やファイナンスを勉強する学生にとって、良い訓練になるだろう。もちろん、格付機関のクオンツにとって初めての機会だし、良い訓練だ。発行目論見書についてはhttps://toushi.kankei.me/d/S100HVI2を参照のこと。
(データは米国セントルイス連銀のFREDデータバンクよりダウンロード可能である)
図の縦軸は利回りを、横軸は時間(四半期)を示している。つまり3.5%永久国債の利回りの「四半期!」利回りデータなのだ。しかも、右端を見てほしい。2015年になっている。つまり、この永久債は2015年に英国財務省の決断により償還、額面の返済をしたものである。
この永久債を1751年に買った人とその子孫は、毎年4回、3.5/4 = 0.875 パーセントの利子を270年間、合計で1,080回もらったのだ。
どうお思いますか?子々孫々に年金を残したことになります(永久債に関してのエピドードについては下記の拙著を参照してください)
永久債は今も生きている: 日本の銀行、生保、そして事業会社も発行
東証上場企業の「DMG森精機(銘柄コード:6141)」は高い技術水準を誇る工作機械メーカーであるが、2021年1月14日つまり来年1月14日を期限とする永久債発行枠を設定した。発行枠は最大で400億円である。詳細な発行条件はまだ未定だそうだが、1)任意償還条項、2)利払繰延条項、3)借換制限条項,4) 劣後特約 などをつけるそうである。1)は当然のことだあるが、2)から4)の特約条項を注意深く考えて、この永久債のプライシングを行うこと、何故長期社債でなくて、永久債を発行することをかんがえたのか、その投資家へのシグナリング効果は何か?などは、研究者やファイナンスを勉強する学生にとって、良い訓練になるだろう。もちろん、格付機関のクオンツにとって初めての機会だし、良い訓練だ。発行目論見書についてはhttps://toushi.kankei.me/d/S100HVI2を参照のこと。
ーつづくー
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