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危機では「Cash is King」 お金は大事だよ

 だいぶ前のことになるが、外資系生命保険会社のアフラックが、アヒルが「お金は大事だよ!」を連呼する、テレビ広告を流していたことがあった。著名な日本画家である堀文子さんが「なんと下劣な」と、雑誌「サライ」に『命というもの』と題して毎月連載していたエッセーのなかで非難をしていたことがあった。

 私は金融に関わっている人間であったけれでも、その批判には共感することもあった。「お金は大事」ということをアヒルがごときに大声でまくし立ててもらいたくないと思う一方で、本当に「お金は大事だ」というときがあるのだから、そうことを荒立てなくても良いのではないかとも感じたのを覚えている。

というのは、アメリカのビジネススクールの授業で、MBAの学生に対して「Cash is King」あるいは、「Cash is King, Cash-flow is Queen」ということを教員が良くはなしてしていたし、後ほど教師になってからもそのことを授業で言ってきた。また2,000年代になって、日本はもちろんその他の国の企業が現金を溜め込むようになってきた時に、現金の保有が何を意味するかをクラスのみんなで考えるきっかけとしてしてきた。

新型コロナウイルス危機に直面して、それがリーマンショックと異なっていたのは、まさに「Cash is King, Cash-flow is Queen」ということの重要性であった。

通常、金融危機は、株式の暴落で始まり、次に安全資産としての国債への需要が高まり、国債価格が増加(利回りは低下)する。それも危ないとなると、金(ゴールド)需要の高まりから金価格が上昇する。「安全性への逃避、Fright-to-safty」である。

しかし今回のコロナショックでは、そうした常識が当てはまらなかった。

株は暴落した、しかし先進各国の優良な国債価格も値下がりした。金も下がった。投資家としても有名なジム・ロジャースは「金はこれから更に上昇する」と2月28日に、自信満々、述べていた。これを読んでホントかなと思った人は少なからずいたに違いない。
ジムは今回のリスクの本質を「掴んでいないな」と思った。

金(ゴールド)に向かわなかったお金は、どこにいかなかったのだろうか?「お金は大事だよ」と叫んだアヒルが本当に訴えたたかったこと(広告)にほかならない。

人にとって究極大事なものは、健康や生命である。それを支えるものはなにか?株なのか? 国債か? 金(ゴールド)か? 命の危機に直面した時には、現金である。

多くの投資家は、今回のコロナショックに置いて、目に見えない生命や健康リスクを感じたにほかならない。そのときに、命から二番目に大事な「現金」への逃避がはじまったのだ。

アメリカで、一般の人が 街の中にあるATMマシンから現金を引き出そうとしたあまり、ATMの現金が枯渇するというが生じているというレポートがある。また、ホームセンターで銃や弾薬の売上が伸びているという報道もある。保有している現金を守ろうとすることがその理由かもしれない。

つまり、今回のコロナショックは、「複合大災害 Complex CATstorophe」なのである。
生命の危機に直面しているというリスクが、株、債券、金(コモディティ)市場に影響をあたえているのである。そのときに伝統的な金融恐慌に対処するための様々な「金融政策」や「財政政策」は、思ったほどの有効性を発揮できない。日銀やFEDの最近の政策が其の直後は有効であるように思えるが、一日としてもたないのは、そのことを具体的にに物語っている。

そのことの意味をこれから、このブロク「パンデミックリスクを考え」で、多面的に考えていきたい。

森平 爽一郎

===== 追記 2020年4月24日 ========
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