エアライン、JAL、ANAとかアメリカンとかの飛行機にのると、大きな会社の名前が着けられているので、あたかも、こうした飛行機会社がその飛行機を所有していると思うかかもしれない。
それは間違いだ。いま空を飛んでいる商用の民間航空機は、ざっくり言って、2万機くらいといわれているが、その半分は借り物である。誰が保有しているのかというと、最終的には、世界中に何万、何十万という投資が保有しているのである。つまり航空機の大半は証券化されているのである。
飛行機は、プライベートジェット機でも50から60億円、大型の飛行機になれば300億から600億円にもなる。大手の航空会社であっても現金でそうそう買えるものではない。まして格安航空会社であればとても現金では買えない。
航空機リース契約
そこで、航空会社は最低でも5年、最長では15年以上にもなる「リース契約」でもって、リース会社から飛行機を長期間借りている。しかし、リースであるから、途中で、借りるのをやめた!というわけには行かない。長期の借金をしている。
しかし、リース会社自身が飛行機を保有しているというわけではない。通常リース会社は、飛行機のリース契約を、例えば、一口1千万円というような小口の証券化商品にして、世界中の投資家に販売している。つまり、自分自身は、リスクを負わないようにしている。つまり、飛行機の証券化である。
飛行機リース商品は、魅力が高い商品である。その理由は
1) 年利回りが10パーセントを上回るものが多い。マイナス金利の日本では、よだれが出る金融商品であり、多くの富裕層、地銀やその他の地域金融機関を含む銀行が多数の航空機リース商品に投資している。10年以上毎年10パーセントのリターンが約束それている商品はそうない。しかも投資対象は目で見える、触ってわかる、よく知っている飛行機会社の飛行機である。心配ない。
2) しかも、節税目的の商品としても特別である。飛行機リース商品を購入すると、最初の1年目で80パーセント、2年目で残りの20%を全額損金として計上できる。富裕層が相続税や自分の会社を売り払うと言ったときの節税に役立つ。
しかし、そう良い話ばかりではない。幾つかのリスクがある。それらは、
1) 利子の支払いはドル建てがおもである。為替リスクがある。特に円高ドル安になると思わぬ損がでる。逆の場合は思わぬ為替利益がでることもあるが。
2) 換金できない。航空機リースの売買市場はないので、また契約上中途売買、換金が禁止されていることが多い。
3) 中途金利と元本の償還は保証されて「いない」。これが問題だ。
最後のリスクはそれほど、今まで重視しされなかった。大手の有名な航空会社が破綻するなどということはほとんど考えなくても良いでしょう、というのはリース会社の営業の人のセールストークであった。事実、エアライン業界では、パイロット不足で困っているのがこの20年位の実情だったのである。それほど好調な業界だったのだ。
ところが、今回のコロナショックである。突然、人の行き来がとまった。エアライン各社は、毎日、季節変動はあるにせよ、右肩上がりで、搭乗者の増加を見込み、それからのキャシュフローを当てにして、人件費や航空機リース代金をはらってきたのである。
もし、飛行機会社の全便が欠航すると、手持ちの現預金は2から4か月ほどでゼロになると言われている。
既にイギリスの航空会社「フライビー」は倒産に追い込まれた。大手の航空会社デルタエアラインですら、この1か月間で、株価は半分22ドルになっている。リーマンショックのときは10ドルだったのだから、まだ大丈夫だという人もいるが、コロナショックはそうかんたんに収束しないであろう。今後、LCCを中心にして続々と倒産が生じるかもしれない。
3月15日には、世界の多くの航空会社が所属する「ワンワールド」、「スカイチーム」、「スターアライアンス」の三大航空同盟は、各国の政府に対して支援を求めた。みなさんも、これらの同盟のいずれかのマイレージカードをもっているだろう。
各国政府は、支援に前向きのようであるが、すべての会社を救済することはとてもできないであろう。支援が十分でない、中小のLCCは破綻が続き、航空機リース商品のデフォルトが頻発するかもしれない。
こうしたことが意味することは何だろうか?重要な帰結として次のようなことが考えれれる。
1) 航空会社だけなぜ助けるのだ! 居酒屋だって同じではないか。共に「日銭商売」何であるのだ、という不満は必ず出てくるだろう。
2) 今回のコロナショックとリーマンショックは違う。前者は実物(健康、生命?)リスクで、後者は金融(信用)リスクだという声が多いが、実は、共に、証券化商品のリスクを内在している点ではおなじである。
3) リーマンショックは「サブプライム不動産」という換金が難しい質の良くない不動産を元(原資産)としているのにたいし、今回の航空機リース商品は動産がもとになっている。しかし、航空機はそう簡単に転売できるわけではない。もし破綻をすれば、リーマンショックのときと同様、航空会社(飛行機)のたたき売りが始まるのではないか?
4) 今回は航空機リースを取り上げた。しかしコロナショックでは、もっと大きな、証券化商品が、瀬戸際に来ている。
追加1:
ロイターの報ずるところによると、アメリカンエアラインなど米国大手8社に対する、米国政府による支援策がまとまったようである。例えば、業界第一位のアメリカンに対しては、なんと1兆円にものぼるパッケージ援助が行われる予定のようである。米国政府としては、ガバナンス管理のために、支援額の1%程度の新株予約権(新株を引き受ける権利、コールオプションとしての機能)の取得を行うとのことであるが、それで果たしてうまくいくのだろうか?
日本のエアラインに対してはどの様な援助パッケージがくまれるのだろうか?
追記2:
オーストラリアのバージン航空(英国のバージン航空の豪州子会社)が破綻(default)したとの報道。負債総額は3,400億円2020年4月21日
参考文献
羽原敬二. (1997). 航空機ファイナンスにおけるリスク管理. 関西大学商学論集, 41(5), 275-298.
それは間違いだ。いま空を飛んでいる商用の民間航空機は、ざっくり言って、2万機くらいといわれているが、その半分は借り物である。誰が保有しているのかというと、最終的には、世界中に何万、何十万という投資が保有しているのである。つまり航空機の大半は証券化されているのである。
飛行機は、プライベートジェット機でも50から60億円、大型の飛行機になれば300億から600億円にもなる。大手の航空会社であっても現金でそうそう買えるものではない。まして格安航空会社であればとても現金では買えない。
航空機リース契約
そこで、航空会社は最低でも5年、最長では15年以上にもなる「リース契約」でもって、リース会社から飛行機を長期間借りている。しかし、リースであるから、途中で、借りるのをやめた!というわけには行かない。長期の借金をしている。
しかし、リース会社自身が飛行機を保有しているというわけではない。通常リース会社は、飛行機のリース契約を、例えば、一口1千万円というような小口の証券化商品にして、世界中の投資家に販売している。つまり、自分自身は、リスクを負わないようにしている。つまり、飛行機の証券化である。
飛行機リース商品は、魅力が高い商品である。その理由は
1) 年利回りが10パーセントを上回るものが多い。マイナス金利の日本では、よだれが出る金融商品であり、多くの富裕層、地銀やその他の地域金融機関を含む銀行が多数の航空機リース商品に投資している。10年以上毎年10パーセントのリターンが約束それている商品はそうない。しかも投資対象は目で見える、触ってわかる、よく知っている飛行機会社の飛行機である。心配ない。
2) しかも、節税目的の商品としても特別である。飛行機リース商品を購入すると、最初の1年目で80パーセント、2年目で残りの20%を全額損金として計上できる。富裕層が相続税や自分の会社を売り払うと言ったときの節税に役立つ。
しかし、そう良い話ばかりではない。幾つかのリスクがある。それらは、
1) 利子の支払いはドル建てがおもである。為替リスクがある。特に円高ドル安になると思わぬ損がでる。逆の場合は思わぬ為替利益がでることもあるが。
2) 換金できない。航空機リースの売買市場はないので、また契約上中途売買、換金が禁止されていることが多い。
3) 中途金利と元本の償還は保証されて「いない」。これが問題だ。
最後のリスクはそれほど、今まで重視しされなかった。大手の有名な航空会社が破綻するなどということはほとんど考えなくても良いでしょう、というのはリース会社の営業の人のセールストークであった。事実、エアライン業界では、パイロット不足で困っているのがこの20年位の実情だったのである。それほど好調な業界だったのだ。
ところが、今回のコロナショックである。突然、人の行き来がとまった。エアライン各社は、毎日、季節変動はあるにせよ、右肩上がりで、搭乗者の増加を見込み、それからのキャシュフローを当てにして、人件費や航空機リース代金をはらってきたのである。
もし、飛行機会社の全便が欠航すると、手持ちの現預金は2から4か月ほどでゼロになると言われている。
既にイギリスの航空会社「フライビー」は倒産に追い込まれた。大手の航空会社デルタエアラインですら、この1か月間で、株価は半分22ドルになっている。リーマンショックのときは10ドルだったのだから、まだ大丈夫だという人もいるが、コロナショックはそうかんたんに収束しないであろう。今後、LCCを中心にして続々と倒産が生じるかもしれない。
3月15日には、世界の多くの航空会社が所属する「ワンワールド」、「スカイチーム」、「スターアライアンス」の三大航空同盟は、各国の政府に対して支援を求めた。みなさんも、これらの同盟のいずれかのマイレージカードをもっているだろう。
各国政府は、支援に前向きのようであるが、すべての会社を救済することはとてもできないであろう。支援が十分でない、中小のLCCは破綻が続き、航空機リース商品のデフォルトが頻発するかもしれない。
こうしたことが意味することは何だろうか?重要な帰結として次のようなことが考えれれる。
1) 航空会社だけなぜ助けるのだ! 居酒屋だって同じではないか。共に「日銭商売」何であるのだ、という不満は必ず出てくるだろう。
2) 今回のコロナショックとリーマンショックは違う。前者は実物(健康、生命?)リスクで、後者は金融(信用)リスクだという声が多いが、実は、共に、証券化商品のリスクを内在している点ではおなじである。
3) リーマンショックは「サブプライム不動産」という換金が難しい質の良くない不動産を元(原資産)としているのにたいし、今回の航空機リース商品は動産がもとになっている。しかし、航空機はそう簡単に転売できるわけではない。もし破綻をすれば、リーマンショックのときと同様、航空会社(飛行機)のたたき売りが始まるのではないか?
4) 今回は航空機リースを取り上げた。しかしコロナショックでは、もっと大きな、証券化商品が、瀬戸際に来ている。
追加1:
ロイターの報ずるところによると、アメリカンエアラインなど米国大手8社に対する、米国政府による支援策がまとまったようである。例えば、業界第一位のアメリカンに対しては、なんと1兆円にものぼるパッケージ援助が行われる予定のようである。米国政府としては、ガバナンス管理のために、支援額の1%程度の新株予約権(新株を引き受ける権利、コールオプションとしての機能)の取得を行うとのことであるが、それで果たしてうまくいくのだろうか?
日本のエアラインに対してはどの様な援助パッケージがくまれるのだろうか?
追記2:
オーストラリアのバージン航空(英国のバージン航空の豪州子会社)が破綻(default)したとの報道。負債総額は3,400億円2020年4月21日
参考文献
羽原敬二. (1997). 航空機ファイナンスにおけるリスク管理. 関西大学商学論集, 41(5), 275-298.
コメント
コメントを投稿
ここに感想をお願いいたします。